旅に連れていってくれる“運命の言葉”

言葉の風水 運命の言葉(3)

言葉の氣ほど強いものはない。偉人・野口英世の母が書いた“手紙”から伝わる言葉の氣とは?子供を開運させる母親とは?


貧しい育ちでも幸運になる人がいます。愛情深い母親に育てられた人です。たとえば偉人・野口英世もそのひとりです。

■母は強し

財布の中に千円札があると思います。もし近くに財布があれば1枚とりだしてご覧になってみてください。右端に肖像画があります。

その人は、世界的細菌学者、野口英世(1876-1928)です。

その野口の母であるシカさんが、息子に手紙を書きました。ご存じの方もいると思います。大変有名なエピソードですから。

野口英世記念館(福島県)に母シカさんの現存する唯一の手紙として展示されています(画像はその一部)。

ある日、アメリカで細菌研究を続ける野口英世のもとに母から一通の手紙が届きます。たどたどしい文字でした。懸命に練習をしながら書いたと思われる手紙でした。

野口は研究に追われ、15年も母のいる日本へ帰っていませんでした。

「はやくきてくたされ」

以下は手紙の内容です。

おまイの。しせ(出世)にわ。みなたまけ(皆驚き)ました。
わたしもよろこんでをりまする。
なかたのかんのんさま(中田の観音様)に。さまにねん(毎年)。
よこもり(夜篭り)を。いたしました。

ん京(勉強)なぼでも。きりがない。
いボし(烏帽子=地名)はわこまりをりますか(からお金の催促には困りますが)。
おまいか(お前が)。きたならば。もしわけかてきましよ(申しわけができましょう)。

はる(春)になるト。みなほかいド(北海道)に。いてしまいます。
わたしも。こころばそくありまする。
ドかはやく。きてくだされ。
かねを。もろた。こト(お金をもらったこと)たれにもきかせません。
それをきかせるト。みなのまれて(飲まれて)。しまいます。

はやくきてくたされ。はやくきてくたされ
はやくきてくたされ。はやくきてくたされ。

いしよのたのみ(一生の頼み)て。ありまする
にし(西)さむいてわ。おかみ(拝み)。ひかし(東)さむいてはおかみ。
しております。きた(北)さむいてわおかみおります。
みなみ(南)たむいてわおかんでおりまする。
っいたちにわ(一日には)しをたち(塩断ち)をしております。

ゐ小さま(僧侶の名)に。ついたちにわおかんて(拝んで)もろておりまする。
なにおわすれても。これわすれません。
さしん(写真)おみるト。いただいておりまする。
はやくきてくたされ。いっくるトおせて(いつ来ると教えて)くたされ。
これのへんちち(返事)まちてをりまする。
ねてもねむられません

“早く帰ってきて下さい”と4回も。痛切な思いがつづられた母からの手紙。

これを読んだとき、息子の野口英世は何を思ったでしょう。言葉の氣について考えるとき、この素晴らしい手紙がいつも頭に思い浮かびます。

野口英世の波乱の生涯は、伝記や映画などでもよく知られていると思います。

■字が読めない母

2歳の頃、野口は大やけどを負って左手の指が不自由になりました。家は貧しい農家でした。

「この子は、普通の人のように働くことができない」

そう思った母シカさんは、英世を学問で身を立てさせることを決意するのです。

やさしく励ましながら、貧しい生活の中、苦労して英世を進学させていきます。息子も人一倍の努力でそれにこたえ、日本が世界に誇る研究者はこうして世にでていったのでした。

息子を支えるため、シカさんは狭いやせた土地で農作業をしていました。女手ながら荷負い作業でも長く働きました。後年には、お産婆さんをつとめています。しかし法律ができ、産婆には資格が必要になりました。

シカさんは幼い頃学校に通うことができず、字が読めませんでした。しかし必死になって平仮名を読むことからはじめ、そして書き方を覚え、見事に産婆の資格を得ているのです。アメリカの同僚が「野口はいつ眠るのか?」といぶかしんだという勤勉な息子、母シカさんのそれが親子の姿でした。

■子供を開運させる母親

世の中には幸運な人がいます。世の中にいる「幸運な人」と聞いてどのような顔を思い浮かべますか?「開運」と聞いてどのようなことが開運だと思うでしょうか。

貧しいことが不幸なのではありません。貧しさから抜け出せないことが不幸なのです。人は誰でも失敗します。失敗から立ち直れないことが不幸なのです。

開運とは立ち直る力を持つことです。不幸から立ち直る力を持てば人はけっして不幸が長続きすることがありません。

野口英世の母、シカさん。その手紙は読む人を感動させます。人を幸運にするのはお金ではありません。人を幸運にするのは教養ではありません。シカさんの素晴らしい手紙が教えてくれています。

息子の野口英世は手紙を読んでしばらくしたあと、一時帰国します。そして老いた母シカさんを連れて全国を旅するのです。偉人の帰国に騒ぐ周囲の浮かれ具合に目もくれず、母をいたわって歩く息子と老母の姿があったといいます。いつ読んでも涙あふれるエピソードです。

しかし残念ながら、だれもが野口英世のように「子供を開運させる母親」に恵まれるわけではありません。多くの人は問題ある家庭に育ち、立ち直る開運の力を持たずに苦しみつつ生きているのです。

ページトップへ

【言葉の風水】運命の言葉(3)